課題
約180万枚の販売可能席数をいかにして埋めるか
2017年、2年後に伝統国以外での初めてのラグビーワールドカップ開催を控えていたラグビーワールドカップ2019組織委員会。日本では当時、まだラグビーは野球やサッカーと比べてかなりマイナーなスポーツでした。もともとチケットを購入して観戦するファンが少ないといわれ、ラグビーワールドカップにおけるチケット販売戦略は大会成功に向けた大きな課題でした。これまでの日本代表のテストマッチ(国別対抗戦)でも満員になるような試合は稀だったのです。
主な取り組み
販売対象者をセグメントし、売れ行きが弱い試合の販売リソースを強化
ラグビーワールドカップ2019組織委員会では、埼玉西武ライオンズ時代に数多くのチケット販売を実施したプロジェクトチームでの経験を活かしてチケッティング・マーケティング局の局長に就任。チケット販売の責任者として、チケット販売に関わるマーケット調査、チケット販売計画の立案や実施、チケットサイトの運用や在庫管理、Web販売におけるプロモーション活動など、総合的な観点から各機能を一か所に統合し、いくつかの記録を打ち立て後に伝説となるチケットチームのマネジメントを行いました。
組織委員会内ではSNSの運用や広報活動を行う広報コミュニケーション部、イベント運営などを行うマーケティング部などと共に、ラグビーワールドカップへの気運醸成に努め、その流れをチケット販売につなげました。
ポイントとなるのは大きく2つ、販売期間に関することと販売試合に関することです。販売期間については、ターゲット別に抽選販売の期間を切り分け、応募、抽選、当選発表、入金のサイクルを販売期間ごとに短期間で繰り返しました。2018年1月よりコアなラグビーファン向けにまずは優先販売し、次に開催都市住民向け、その次がファンクラブ向けなど、細かく抽選販売のサイクルを組んで回すことで、ラグビーファンや周辺のターゲット層に対して希少価値を作り出すことに成功し、これが2019年1月から実施した先着販売における人気につながりました。この方法はワールドラグビーからは当初不評で「できない」「混乱する」「やめた方が良い」と言われていましたが、日本人の勤勉さによって問題なくオペレーションが完結し、振り返ると大きなターニングポイントとなりました。
販売試合については、予選プールから決勝トーナメントまでの全48試合を、対戦カードの人気度やチケットの売れ行きに応じて大きくA・B・Cと3つに分けました。その上で売れ行きが弱いと見られるCの試合にリソースを集中して販売を強化するなど、少ない予算を効果的に使うよう努めました。またその情報(A・B・C情報)を開催都市の担当職員にも適宜シェアし、地元での告知活動の強弱に利用していただくと共に、自治体職員や地元ラグビー協会の方々にも様々なご協力をいただきました。
また大会が始まってからも、毎試合現地チケッティングスタッフによる座席の埋まり具合の確認と、試合前のテレビ映像を見て大きなかたまりでの空席がないかをこまめにチェック。テレビ映像にスタンドがどの角度でどのように映るのかを確認し必要に応じて調整するなど細かい作業を続け、全世界に48試合全試合満員の盛り上がるスタンド映像を配信することができました。
ソリューション・実績
184万枚、約99.3%のチケット販売率を達成
チケットの販売数は最終的に約184万枚(販売率は約99.3%)、観客動員数は170万4443人となりました。予想を大幅に上回る大会の成功に貢献したと共に、ラグビーワールドカップ2019が日本におけるラグビーファンの掘り起こしと拡大、活性化に大きく寄与しました。この大会の成功はその後のラグビープロリーグ化構想にも良い影響を与え、ラグビー人気がこの先も継続していく契機になると考えられます。
ラグビーワールドカップを主催するワールドラグビーのビル・ボーモント会長は「ラグビーワールドカップ2019は、最高の大会の1つであり、私たちが愛するラグビーに新たな観客をもたらしたという点で非常に画期的でした」と述べています。