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森貴信ブログ
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『君たちは何をめざすのか』を読んで

ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長特別補佐だった徳増浩司さんの著書『君たちは何をめざすのか―ラグビーワールドカップ2019が教えてくれたもの』(ベースボール・マガジン社)を読んだ。徳増さんは私が2年半在籍した組織委員会の中でもひときわ目立つ存在で尊敬できる方だった。何といってもこのラグビーワールドカップを日本に招致した中心人物である。徳増さんがいなければ私がラグビーワールドカップに関わることもなかっただろう。その徳増さんがどんな本を書いたのか。わくわくしながら読んだ。

素敵なイラストも魅力

私は2017年7月から大会終了までの間、ラグビーワールドカップ2019組織委員会のチケッティング・マーケティング局局長としてチケッティング部をまとめていた。北から順に札幌ドーム、釜石、熊谷、東京(味の素スタジアム)、横浜(日産スタジアム)、静岡(エコパ)、豊田、花園、神戸、福岡、大分、熊本。全国12会場で行われる予選プール40試合、決勝トーナメント8試合、合計48試合。大きいスタジアム、小さいスタジアム、試合日程や対戦相手。いろいろある中で用意された180万枚のチケットをどうやって販売しようか、そればかり考えていた。チケットをたくさん売ってどの会場も満員にすれば、その光景が国際映像に乗って世界中に配信される。そうなれば大会は必ず成功と言われることになる。そう確信していたからだ。チケットを販売する前の準備段階では、日本戦やニュージーランド戦(オールブラックス)はきっと満員になるだろう、でもみんなが知らないような国、例えばジョージアとかナミビアとかの試合はきっとチケットは売れないだろう。チケット単価はすべてにおいて高めに設定されていたため、値段が高すぎるのではないか。それがネックになってチケットは売れないのではないか。心配すればキリがないほど様々な不安があったものだ。

ふたを開けてみると、販売は好調だった。2019年9月20日の開会式までの時点ですでに95%のチケットが売れていた。大会終了までに1枚でも多く売る。我々チケットチームは最後の最後までベストの仕事をしようとモチベーションが高かった。大会が始まると私は毎試合、試合会場ではなく神宮球場の前にある組織委員会本部にいてテレビをチェック。キックオフ15分前に映し出されるスタンド映像を確認して、まとまった空席がないか、あったら誰の席なのかをデータベースから調べ、現場スタッフにテレビに映して恥ずかしくないスタンドにするよう指示を出していた。そのため実はあまり試合会場には行っていない。それでも我々はチケットをたくさん販売したんだ、全試合満員のスタンドを世界に向けて映すことができたんだと満足感を感じていた。

ところが、である。この徳増さんの本にはラグビーワールドカップで実際にどんなことが起きていたのか、世界各地からやってきた子供たちや日本の子供たちのエピソードとともに感動的な話がいくつも書かれていた。何のためにスポーツの仕事をしているのか。その根幹に触れるようなことがとても熱く語られていたのだ。正直に言えば大会前から徳増さんのフェイスブックページを私もフォローしていたので、「オーストラリアのイーサン君が大会に合わせて来日するとき、日本でレフェリーをやりたいと言っています」というような投稿は何となく目にしていた。でもその先は忙しさにかまけて追っていなかった。それがこの本を読んで、たくさんの人たちの協力でこの少年が実際に日本で笛を吹くことができたのだと知った。何という善意のパス回しだろう。そんなたまたま来た一本のメールからの出来事のように、この少年だけでなく日本を訪れた世界中の人によるたくさんの出会いと感動がラグビーワールドカップを中心として実際に日本各地で起きていたのだと思い知らされた。この本を通じて私は日本人のもつ温かな心とラグビーというスポーツの素晴らしさを改めて実感することができたのだった。

私は自分の仕事を全うした。でもそのことにこだわってスポーツ本来の良さや意味、意義を少し忘れていたのではないかと反省させられる。本を読んでいて、自分が用意したチケットがこのようにして使われていたのかと涙が出てくるような場面もあった。心を洗われるとはこのことだろう。スポーツビジネスに関わる皆さんにこの本をぜひ読んでほしい。「君たちは何をめざすのか」あらためて考えさせられるだろう。

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