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著書:スポーツビジネス15兆円の到来
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第1章
スポーツビジネスは有望か?

──『日本再興戦略2016』で描かれる未来

スポーツイベントによる経済効果

いま述べたことを、改めて整理してみよう。

金額で見ると、国内客による消費で経済波及効果は160億円、訪日外国人客による消費で経済波及効果はなんと1057億円になると予想されている。訪日外国人の消費は日本人の数倍なのだ。よく考えると、これは大変なことである。

直接効果の中で、観客による消費額以外では、スタジアムのインフラ整備費用として400億円が見込まれている。大きな国際大会ともなると、照明やグランドの状態などそれぞれに実施基準というものがあり、既存のスタジアム環境ではそのまま開催できないことがある。客席が背もたれ付きで何席以上必要とか、照明が何ルクス以上ないとダメだとか、ハード面での基準が細かく定められているのだ。実施を予定しているスタジアムでは、その基準に合わせるために、もしそれに足りなければ席を増設したり、古くなった照明施設を入れ替えたりする必要に迫られる。その費用が経済効果として計算されるのだ。それらの合計が、今回のラグビーワールドカップでは400億円と見られている。

また、大会運営費用でも300億円が見込まれている。これは組織委員会や開催自治体が負担するものだが、おもに大会出場チームや大会ゲスト、国際メディアなどに提供するサービスにかかる費用である。例えば、放送用の設備費とか大会に参加する全20か国の選手・スタッフの宿泊費と考えるとわかりやすい。

これらの金額を合計すると「直接効果」だけで1917億円になる。この金額はプロ野球12球団の1年間の売上合計に匹敵する。ちなみに、ラグビーワールドカップの開催期間は約1か月半、日数にすると44日間だ。単純に言うと、ラグビーワールドカップが開催されるだけで、プロ野球の市場がまるまるもう一つできるということだ。

直接効果に加えて、第一次と第二次の間接効果というものもある。第一次間接効果とは、開催準備期間から大会期間における、サプライチェーン全体を通じた需要の拡大である。

例えばこれには、国内外のお客さんが大会前後で消費するレストランの料理に使われる原材料の費用などが含まれる。また第二次間接効果とは、開催準備期間から大会期間における雇用増加による消費拡大を表わしている。例えば、試合が開催される都市のホテルでは、スタッフの増員が必要になるだろう。スタジアムで働くスタッフも通常の人数よりも増員が必要となる。このような費用(金額)が第二次間接効果に含まれる。

ラグビーワールドカップの経済効果について、金額をまとめると「直接効果」1917億円、「第一次間接効果」1565億円、「第二次間接効果」890億円となり、総合計が4372億円となる。

ラグビーワールドカップでこれだけの効果があるのだから、東京2020オリンピック・パラリンピックになったら、一体どうなるのだろうか。ラグビーワールドカップは種目数で言えばわずか1種目であり、オリンピック・パラリンピックは30競技以上の多種目にわたる。またオリンピック・パラリンピックともなると、大会自体の運営規模も、人々の関心も、ラグビーワールドカップとはけた違いである。そのため、東京2020オリンピック・パラリンピックの経済効果は、ラグビーワールドカップの数倍以上が見込まれるだろう。普通に考えても何十兆円にもなるだろうと思われる(*6)

これだけの大きな金額を、例えば、何か他の産業で新たに生み出そうとすると大変難しいだろう。2019年から始まるゴールデン・スポーツイヤーズでは、かつて日本人が経験したことのない規模の世界的イベントが3年連続で日本において開催され、それに付随してかなり大きな規模のお金が動くのである。

(*6)日本経済新聞(2017年3月7日)によると、東京都が試算した経済効果は全国で約32兆円超だという。

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スポーツビジネス15兆円時代の到来

森貴信著/平凡社新書

長らく競技者(選手)のものだった日本のスポーツは、新しいステージを迎え、今後より人びとの暮らしに密着したものになる。すでに起こっている事例を挙げつつ、人・モノ・カネの動きの実際と予想される未来を、スポーツビジネスの最前線で活躍する著者が語る。
そもそも、スポーツは仕事(の場)となりうるのかという疑問に発し、政府が提言する『日本再興戦略2016』のうち、国が〈スポーツの産業化〉を強く後押ししている実態を紹介、その意味をていねいに分析することで、今後、劇的な経済効果を促す異業種との交流や他産業の参入、さらにはスポーツイベントに連動する生活の場と習慣の変化など、スポーツというフィールドに秘められた大きな可能性に迫る。
――進学、就職・転職から共生の場の創出まで、新時代の社会のかたちが見えてくる。