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著書:スポーツビジネス15兆円の到来
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第1章
スポーツビジネスは有望か?

──『日本再興戦略2016』で描かれる未来

他産業とスポーツ界の連携が莫大な経済効果を生み出す

C.スポーツ分野の産業競争力強化

1.新たなスポーツメディアビジネスの創出

JリーグとDAZNの大型契約に代表される新たな放映権ビジネスの行方は、この先の日本におけるスポーツビジネスの発展に大きな位置を占めると予想される。Jリーグはこの大型契約で得た資金をおもに各Jチームへの分配金として活用し、リーグとしての価値向上に努める方針だ。Jリーグは世界的に見ると、イングランドのプレミアリーグやスペインのラ・リーガ、ドイツのブンデスリーガ、イタリアのセリエAなどと競争をしており、この先、放映権ビジネスを含めたリーグビジネスの巧拙が、その発展において重要なポイントとなる。リーグビジネスにおいては、放映権の取り扱いが金額面で大きなウエイトを占める。そしてリーグビジネスがうまくいき、Jリーグの価値や魅力が上がれば上がるほど、世界中から優秀な選手がやってくるだろうし、そうなればまたリーグの価値もさらに上がる。その逆もしかりである。

サッカー以外でも、プロ野球やバスケットボールBリーグ、新たにスタートした卓球のTリーグ、そして人気のある大学スポーツなど、放映権の在り方を再検討したり、新たな契約を結んだりすることが、今後のスポーツの市場規模を拡大させることにつながっていく。

インターネットを使った動画配信については、今後も注目していきたい。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるインターネットのプラットフォーマーは、今後も優良なコンテンツに対しては多大な投資をすると予想され、スポーツが優良コンテンツとしてその投資先となることは間違いない。この部分での舵取り次第で、日本にもスポーツが産業として大いに飛躍する可能性があるのではないだろうか。

2.他産業との融合等による新たなビジネスの創出

この部分の説明には、「スポーツと健康、食、観光、ファッション、文化芸術等との融合に留まらず、スポーツを「みる」、「する」楽しみをサポートし、拡大するため、スポーツとテクノロジーの融合、デジタル技術(IT)を活用したウェアラブルな機器の導入、新たなスポーツ用品の開発・活用、スポーツ関連データの流通促進等によってスポーツが持つ新たな価値を創造につなげる。このため、スポーツ新市場の創造・拡大等に向け、関係省庁と連携し他産業との融合化に向けたビジネスマッチング等の支援措置について検討」するとある。

このあたりについては、これまで国が関与することはほとんどなく、想像すらできなかった部分であったが、今回このような言及がされたことで、スポーツ産業以外の企業にとっても、一気にビジネスチャンスが生まれる可能性が出てきており、このことが展示会やシンポジウムにおける参加企業の増大という形となって表われてきている。テニスにおけるホークアイ(ボールの軌道を追いかけて、アウト/インの判定をするシステム)がバドミントンにも活用されたり、2018年FIFAワールドカップで導入されたVAR(ヴィデオ・アシスタント・レフェリー)が他の競技にも活用されたりするなど、審判の代わりやその判定を補完するものとして、デジタル機器やデジタル技術がスポーツに利用されることがこれからますます増えていくだろう。

オリンピック・パラリンピックが企業における新商品の巨大なショーケースと言われるように、スポーツイベントにおけるテクノロジーの実用化が他の分野における導入の先鋒となるケースもあり(スポーツは万人にとって何よりわかりやすいこと、それに伴い、企業としても予算が取りやすいことが理由として挙げられる)、ここに政府が言及したことが、スポーツ産業以外の企業によるスポーツ業界への投資拡大に影響を及ぼしていると考えられる。また、スポーツには普段からさまざまなデータがあり、実際にプレーや観戦にも活用されている。新たなデバイスの開発も含め、近年、特にスポーツ界で進んでいるのがこのデータ活用の部分である。そのため、工夫次第でビッグデータを使った新たなビジネス創出にもスポーツが貢献することが考えられる。このように、スポーツビジネスと他産業との融合という観点は可能性の宝庫であり、今後の発展が大いに期待される部分である。

3.スポーツ市場の拡大を支えるスポーツ人口の増加(年代や男女等の区別のないスポーツ実施率の向上)

この部分の説明には、「参加しやすい新しいスポーツの開発・普及等や職域における身近な運動を推奨、ライフステージに応じた運動・スポーツプログラム等の充実、障害者スポーツの環境整備等の方策について検討」するとある。

ここについては、スポーツが身近にある生活という意味では、日本はドイツなどにまだ及ばないように感じている。実際、日本は気軽にスポーツを楽しむという環境にはまだないのではないだろうか。これは「働き方改革」とも連動するテーマだと思うが、そもそも生活していく中で運動する時間や気軽に利用できる設備がないということ、スポーツ実施率を向上させるには、ワークライフバランスや健康的な生活という観点での国民の意識の変化が必要になってくるということなど、さまざまな要素が複雑に絡みあうテーマだと考える。

スポーツの競技人口という切り口で言うと、例えば、プロ野球はそれなりに売上規模で見た市場としては伸びているものの、その一方で野球の競技人口はと言うと、実は年々減っているといったデータもあり、ここは短期的な施策ではなく、長期的なグランドデザインに立った施策が必要だと思われる。

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スポーツビジネス15兆円時代の到来

森貴信著/平凡社新書

長らく競技者(選手)のものだった日本のスポーツは、新しいステージを迎え、今後より人びとの暮らしに密着したものになる。すでに起こっている事例を挙げつつ、人・モノ・カネの動きの実際と予想される未来を、スポーツビジネスの最前線で活躍する著者が語る。
そもそも、スポーツは仕事(の場)となりうるのかという疑問に発し、政府が提言する『日本再興戦略2016』のうち、国が〈スポーツの産業化〉を強く後押ししている実態を紹介、その意味をていねいに分析することで、今後、劇的な経済効果を促す異業種との交流や他産業の参入、さらにはスポーツイベントに連動する生活の場と習慣の変化など、スポーツというフィールドに秘められた大きな可能性に迫る。
――進学、就職・転職から共生の場の創出まで、新時代の社会のかたちが見えてくる。