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著書:スポーツビジネス15兆円の到来
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第1章
スポーツビジネスは有望か?
──『日本再興戦略2016』で描かれる未来
スタジアムのコストはどこが持つ?
A.スタジアム・アリーナ改革(コストセンターからプロフィットセンターへ)
1.スタジアム・アリーナに関するガイドラインの策定
政府が記す「新たに講ずべき具体的施策」の最初に挙げられているのが、スタジアム・アリーナ改革である。ここには、「スポーツ観戦の場となる競技場や体育館等について、観客にとって何度も来たくなるような魅力的で収益性を有する施設(スタジアム・アリーナ)への転換を図るため、施設の立地・アクセス、規模、付帯施設、サービス等、整備や運用に関するガイドライン」を取りまとめる、とある。そしてその後、実際に『スタジアム・アリーナ改革ガイドブック』が経済産業省とスポーツ庁の共同作業でまとめられた。その内容については次の項で言及する。
もう一つ、ここで重要なのが「コストセンターからプロフィットセンターへ」という括弧で括られた部分だ。
これまでの競技場・体育館は、ほぼすべてが地方自治体の所有物であり、コストセンター(費用の方が収入を上回っている状態。もしくは管理などが主体であるため、費用を払うばかりで収入のことはほとんど考えていない状態)であったことは間違いない。それは、利用者から徴収する使用料などの収入よりも、電気代などの施設管理料や施設を運営・管理する人件費といった費用の方が、収入を確実に上回っていたと推測されるからである。それを今回「コストセンターからプロフィットセンターへ」と記しているということは、それらの費用を上回る収入を何らかの形で稼ぐべきだと言っているに等しい。
「競技場」や「体育館」で、いやそれらを新しく言い換えた「スタジアム」や「アリーナ」で、もっともっとお金を稼ぐべきだ──このことをはっきりと掲げたという点で、この国のスポーツ行政における考え方に、今回初めて大きなパラダイムシフトが起きたと指摘できる。
2.「スマート・ベニュー」の考え方を取り入れた多機能型施設の先進事例の形成支援
先ほど『スタジアム・アリーナ改革ガイドブック』に少し触れたが、これは、2017年(平成29年)6月にスポーツ庁・経済産業省より公表されたものだ。その中にある「本ガイドブックのねらい」では、「スタジアム・アリーナは、スポーツ産業の持つ成長性を取り込みつつ、その潜在力を最大限に発揮し、飲食・宿泊、観光等を巻き込んで、地域活性化の起爆剤となることが期待されている」と打ち出されている。
さらに、『未来投資戦略2017』(平成29年6月9日閣議決定)では、2025年までに20か所のスタジアム・アリーナの実現を目指すことが具体的な目標として掲げられ、今後、多様な世代が集う交流拠点となるスタジアム・アリーナを整備し、スポーツ産業をわが国の基幹産業へと発展させていき、地域経済好循環システムを構築していくとしていて、ここでも目指すべき市場規模と同様、2025年までにスタジアム・アリーナを全国に20か所造るという具体的な数値目標が設定されている。
2019年現在、そこに至る道筋もすでにいくつか見えていて、具体的に検討が進んでいるものの数は多い。スタジアム・アリーナに関しては、これから10年以内に日本各地でこれまでとは大きく違う風景が見られることがほぼ確実であり、非常に楽しみだ(図2)。
『日本再興戦略』では市場規模が目標として大きく打ち出されているため、それを達成する手段としても、このスタジアム・アリーナには大きな期待がかかっている。スタジアム・アリーナを新設すると、建設費などの投資金額が大きくなって数値目標達成に大きく貢献すると見られているためだ。例えば、北海道日本ハムファイターズが北広島市に計画している「ボールパーク構想」とV・ファーレン長崎が長崎市に計画しているホテル・オフィスと一体化した「スタジアムシティ計画」は、それぞれの投資金額が500億円を超えると発表されていて、その2つを合わせただけでも合計1000億円以上の投資規模となる。現在、計画されているものの中でも、この2つの投資金額は突出して大きいが、他に新設されるスタジアム・アリーナについても相応の建設費が見込まれている。
スポーツビジネス15兆円時代の到来
森貴信著/平凡社新書
長らく競技者(選手)のものだった日本のスポーツは、新しいステージを迎え、今後より人びとの暮らしに密着したものになる。すでに起こっている事例を挙げつつ、人・モノ・カネの動きの実際と予想される未来を、スポーツビジネスの最前線で活躍する著者が語る。
そもそも、スポーツは仕事(の場)となりうるのかという疑問に発し、政府が提言する『日本再興戦略2016』のうち、国が〈スポーツの産業化〉を強く後押ししている実態を紹介、その意味をていねいに分析することで、今後、劇的な経済効果を促す異業種との交流や他産業の参入、さらにはスポーツイベントに連動する生活の場と習慣の変化など、スポーツというフィールドに秘められた大きな可能性に迫る。
――進学、就職・転職から共生の場の創出まで、新時代の社会のかたちが見えてくる。