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著書:スポーツビジネス15兆円の到来
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第1章
スポーツビジネスは有望か?

──『日本再興戦略2016』で描かれる未来

「国が力を入れる事業」に定められたスポーツ産業

これからスポーツ産業はほぼ確実に発展する。その大きな裏付けとなるものが、政府が2016年にまとめた『日本再興戦略2016──第4次産業革命に向けて』である。つまり、政府が主導する「国家プロジェクト」とも言えるような大きな動きの中に、何とスポーツ産業が組み込まれたのだ。このようなことは、これまでの日本におけるスポーツ産業の歴史において、一度もなかったことである。国がスポーツの産業化に率先して力を入れるということ自体、日本のスポーツ産業にとって「大きな転換点」と言える画期的な出来事なのだ。ここから先は、スポーツ産業に大きな発展をもたらすこの『日本再興戦略2016』について、少し紙幅を取って説明していく。

A4サイズの紙で241枚にもなる『日本再興戦略2016』には、国の在り方や今後の方針などありとあらゆることが書かれているのだが、冒頭の「日本再興戦略2016の基本的な考え方」という部分の最後に、印象的な記述があるので引用したい。

時代は大きく変わろうとしている。変革を恐れず新たな成長の途を目指すのか、世界の先行企業の下請け化の途を取るのか。日本は今、歴史的な分岐点にいる。こうした変革の時代を乗り越え、成長軌道に乗せ、日本を世界で最も魅力的な国とする。
そのための羅針盤が、日本再興戦略2016である。

そこには、政府の並々ならぬ成長への意欲が感じられる。そしてその後に続けて、戦後最大となる名目GDP600兆円の実現に向けた「官民戦略プロジェクト10」なるものを具体的に列挙し、この10のプロジェクトの骨子として「新たな有望成長市場の創出」「ローカルアベノミクスの深化」「国内消費マインドの喚起」の3つが掲げられている。その中でスポーツ産業は、最初の「新たな有望成長市場の創出」のうちの一つとして登場する(図1)。

政府が示すスポーツ産業成長実現のためのガイドライン

(1)第4次産業革命(IoT・ビッグデータ・人工知能)
(2)世界最先端の健康立国へ
(3)環境・エネルギー制約の克服と投資拡大
(4)スポーツの成長産業化
(5)既存住宅流通・リフォーム市場の活性化

これでわかるように、「スポーツの成長産業化」ということが、国の有望成長市場の〝4番バッター(4番目)〟として位置づけられているのだ。スポーツ産業が、ビッグデータや人工知能と並んで国の有望成長産業だと認定されたことは、これまでスポーツに関わってきた関係者からすると驚きでもあり、また大変喜ばしいことではないだろうか。これはやっと政府が、スポーツ産業にはまだ多大な伸び代があるということに気づいた証拠である。

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スポーツビジネス15兆円時代の到来

森貴信著/平凡社新書

長らく競技者(選手)のものだった日本のスポーツは、新しいステージを迎え、今後より人びとの暮らしに密着したものになる。すでに起こっている事例を挙げつつ、人・モノ・カネの動きの実際と予想される未来を、スポーツビジネスの最前線で活躍する著者が語る。
そもそも、スポーツは仕事(の場)となりうるのかという疑問に発し、政府が提言する『日本再興戦略2016』のうち、国が〈スポーツの産業化〉を強く後押ししている実態を紹介、その意味をていねいに分析することで、今後、劇的な経済効果を促す異業種との交流や他産業の参入、さらにはスポーツイベントに連動する生活の場と習慣の変化など、スポーツというフィールドに秘められた大きな可能性に迫る。
――進学、就職・転職から共生の場の創出まで、新時代の社会のかたちが見えてくる。