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著書:スポーツビジネス15兆円の到来
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第1章
スポーツビジネスは有望か?

──『日本再興戦略2016』で描かれる未来

スポーツビジネスを取り巻く環境

スポーツを単なる趣味や娯楽ではなく「ビジネス」としてとらえようとするならば、「そもそもスポーツがビジネスとして成り立つのかどうか」「もしスポーツがビジネスとして成り立つとしたら、どんなことが条件になるだろうか」を考えることが、まずは重要になる。

スポーツビジネスに限らず、どんなビジネスでも成功するかどうかは、その事業環境に大きく左右される。仮に、どんなに立派なビジネスモデルがあっても、どんなに先進的な商品があっても、どんなにたくさんの資金があっても、タイミングも含めたその事業が置かれている環境が悪ければ、ビジネスとしての大きな成功はないだろう。何かビジネスをはじめる際、まずはじめにそのビジネスを取り巻く事業環境がどういう状態・状況であるかを整理することは、ビジネスパーソンとして誰もが行うべき基本的なチェックポイントである。

簡単に例を挙げるとこういうことだ。我々日本人はこういうことをこれまでに経験しているので、たぶん理解がしやすいのではないだろうか。

戦後の高度成長期のような人口がどんどん増えている時代であれば、全体的に市場が拡大しているので事業環境は良く、一般的な消費財であれば、どのような商品でも比較的簡単に売上を伸ばすことができるだろうと推測される。それとは反対に、リーマンショックで金融市場が落ち込んでいるような時には、そこに参加しているプレーヤーのマインド自体が落ち込んでいるので、その時どんなに魅力的な金融商品を出したとしても、その商品はさほど売れないだろう。

これまでのスポーツ業界は、一体どのような状況で推移してきたのか。現在のスポーツ業界はビジネスとしてどのような状況なのか。活況なのか不況なのか。そしてこの先、どうなりそうなのか。この章ではスポーツビジネスを取り巻く環境を広く大まかにつかむために、この先のスポーツ業界の事業環境について話を進めていく。

蛇足になるが、あなたがもしどこかで働いているとしたら、これを機にあなたが働いている業界の事業環境をもう一度、洗い直してみてはいかがだろうか。インターネットが普及し、これだけ移り変わりの激しい現代社会において、これまで安泰だと思われていた業界でも事業環境を見直してみたらもはや安泰ではなかったということが、これからはどんどん起こってくるだろう(例えば、金融業界における銀行など。伝統的に安定していて安泰というイメージがあるが、低金利とテクノロジーの進化によるフィンテックの台頭で、大手都市銀行においても大規模なリストラが発表されるなどしている)。

おせっかいかもしれないが、読者のみなさん一人ひとりがタイミング良く適切なアクションを起こせるよう、そしてそのアクションが手遅れにならないよう、自分の周りの事業環境を一定期間ごとに見直すことを是非すすめたい。そうすることは、長い人生を考えてみても、決して無駄ではないと私は思う。

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スポーツビジネス15兆円時代の到来

森貴信著/平凡社新書

長らく競技者(選手)のものだった日本のスポーツは、新しいステージを迎え、今後より人びとの暮らしに密着したものになる。すでに起こっている事例を挙げつつ、人・モノ・カネの動きの実際と予想される未来を、スポーツビジネスの最前線で活躍する著者が語る。
そもそも、スポーツは仕事(の場)となりうるのかという疑問に発し、政府が提言する『日本再興戦略2016』のうち、国が〈スポーツの産業化〉を強く後押ししている実態を紹介、その意味をていねいに分析することで、今後、劇的な経済効果を促す異業種との交流や他産業の参入、さらにはスポーツイベントに連動する生活の場と習慣の変化など、スポーツというフィールドに秘められた大きな可能性に迫る。
――進学、就職・転職から共生の場の創出まで、新時代の社会のかたちが見えてくる。